玉澗流の枯滝組と峻険さに目をみはる名古屋城二の丸庭園

御所・城・大名の庭

名古屋城は言わずと知れた徳川家康が築城した名城です。

◆庭園レポート
名古屋城の二の丸庭園の作庭には上田宗箇の関与があるらしいといわれています。江戸の後期に大きく改修され回遊式の庭園となりました。2018年に庭のほぼ全体が国指定名勝になっています。

二之丸庭園は2013~2023年までの10年間に渡る大規改修工事中です。北御庭には有名な「玉澗流」ぎょっかんりゅうの枯石滝組が見られます。「玉澗流」は安土桃山期に出現した作庭方法で宋の有名な水墨画家・玉澗の山水画をモチーフにしたものです。

背後に大きな築山を造り、その間から滝を落とし滝の上に石橋を架けるのが特徴です。日本では10例ほどしかない技法で、他には和歌山の粉河寺庭園や漢陽寺で見られます。この「玉澗流」の手法から上田宗箇の関与が推察されています。

本来は石を敷き詰めた枯池らしいのですが工事中なためか、雨水がたまって水池のようになっていました。
二の丸庭園はとにかく石の数がすごいのと、峻険な地形を再現した超然とした雰囲気に痺れます
。早く改修後の枯池の姿も見たいなあと思いました。

南御庭は三尊石の石組みと枯滝石組が見られます。切石による石橋が架けられていて遠近感を感じさせます。
とにかく青石などの美しく大きな石がふんだんに使われた、豪壮な石組みが楽しめる二の丸庭園でした。


◆開園
午前9時~午後4時30分(年末年始は休園)

◆入園料
500円

◆見学所要時間(庭園のみ)
30分ほど

◆アクセス
愛知県名古屋市中区本丸1−1 ⇒地図
名城線 「市役所」 下車 7番出口より徒歩 5分
市バス 栄13号系統(栄~安井町西) 「名古屋城正門前」下車すぐ


◆歴史のこばなし
「玉澗流」の庭園が水墨画をモチーフにしていると紹介しましたが、他にも水墨画をモチーフにした庭園として有名なのは江戸の絵師、雪舟が作庭した常栄寺の庭園などがあります。なぜ庭園に水墨画の要素を取り入れようとしたのか…。

▲雪舟 四季山水図

禅宗で枯山水庭園が発達したことについてはこちらでもご紹介していますが、禅宗の寺院ではよく水墨画をみかけます。
日本に禅とともに水墨画の様式が伝わったのは鎌倉時代。絵仏師や禅僧が中心となって水墨画の制作をはじめます。禅の教えを描いた「禅画」は水墨画の技法で描かれることが多くなっていきます。

▲禅の始祖、達磨大師とその弟子の慧可のエピソードを雪舟が描いた禅画

禅宗は簡素で華美を排除する傾向の強い宗派なので水墨画との親和性が高かったのかな?とも思ったのですが特にそういう理由でもないようでした。

宋時代の禅宗ではすでに水墨画で描いた仏画が用いられており、日本もその例に倣ったようです。中国で発展した水墨画ですが「着色技術がなかったから墨のみで描いていた」ということではなく、墨の濃淡をコントロールして表現する技術や、紙に浸潤するぼかしの風合いに良さを見出し発展していったのだと思われます。

ところで私は水墨画が大好きなのですが友人や知人を水墨画展に誘っても、あまり色よい返事が得られません。「どう鑑賞したらよいのか、良さがわからない」と言われることが多く…。
私は歴史や宗教史が好きなので水墨画の世界にスゥっと没頭できましたが、そうでない場合はどこに魅力を見出すのか…。

でも墨の濃淡のみで空気や空間の広がりを表現している様は本当に見事としか言いようがないし、紙という非常に燃えやすいものに描かれた水墨画を先人たちが何百年も文化価値のあるものとして保護してきた、そのことも一見の価値があると思っています(文化財のほとんどがそうなりますが…)。

あと禅画の水墨画は仙厓義梵せんがいぎぼん白隠慧鶴はくいんえかくの作品などゆるくかわいく、わかりやすく描かれたものもあるのでおススメです。

仙厓義梵「天狗図」


▲白隠「すたすた坊主図」

もちろん現代画家の水墨画もとてもカッコよいので目にする機会があれば、モノクロの筆致で空間の広がりを捉えようとしている世界観を楽しんでみてください!

ikeda

ikeda

日本庭園(特に古庭園)と歴史が好き。歴史のアレコレを調べるのと庭巡りがライフワークの管理人が発信するブログです。

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