吉野川を借景にした石庭と滝のある回遊式庭園、本楽寺

日本庭園の歴史

徳島県美馬市にある本楽寺は仁明天皇の828年に僧、 恵運が真言の道場として開創。天正年間に長宗我部氏の兵火にかかって全焼。その後、蜂須賀家政が四国に入国して以来、菩提所となった真言宗の寺院です。

庭園レポート

本楽寺には吉野川を借景にしたとっても珍しい石庭があります。作庭は齋藤忠一氏。もともとあった塀を取り除き、石庭と吉野川が一体になるように設計されています。吉野川と石庭と山と空が美しく連なり、とても雄大な広がりを感じさせるお庭です。野山を借景にする手法はよくありますが、川を借景にしているのは本当に珍しく私は初めて目にしました。

本堂の裏手には迫力の滝がある利用した回遊式庭園もあります。自然石を活かした枯山水で高低差が激しくて足元はちょっと注意が必要ですがでもその分、落水の迫力を楽しむことができます。点在している自然石も大きくてかっこいい凄みのあるものが多かったです。苔の感じもとても素敵で山歩きを楽しんでいるかのごとく爽快感がありリフレッシュできます。

美しいお茶室ではお抹茶をいただくこともできます。住職さんにお会いして徳島の歴史のお話をおきかせしてもらうこともできました。


◆拝観
拝観時間9:00~16:30(夏季は17:00まで)

◆拝観
拝観料:300円 お抹茶:400円 写経:400円

◆見学所要時間
1時間ほど

◆アクセス
徳島県美馬市穴吹町三島小島123


歴史コラム

借景という外部景観を意図的に庭園へ取り込もうとする表現技法が現れたのは17世紀(1601年~1700年)ころ。芸術家の岡本太郎氏は借景の技法を「自然と反自然的要素と対立のまま結合する技術」と記しています。特定の視点から外部空間と庭園空間を有機的に結びつける借景の手法には地形の選択から視点の角度設定まで計算に入れた空間デザインが必要になります。

比叡山を借景としていることで有名な正伝寺円通寺も借景を取り込むのに恵まれた地形を活かされています。円通寺には石組み、正伝寺には白砂の中に刈り込まれたサツキが配されています。
人工的に手を加え整えた庭園景と自然の借景とを生垣や白壁の塀で区切ることによって比叡山の姿を際立たせ、同時に庭園景と借景とを引き寄せる効果があります。この区切りの手法も借景庭園には不可欠な構成要素だそうです。本楽寺はあえてこの区切りを排除していて、面白いおおらかで雄大な空間構成となっていました。他の借景庭園と見比べたり体感してみるのも一興ですね。


▲正伝寺の借景
▲円通寺の借景

円通寺や正伝寺は「比叡山」を借景の対象にしたものでしたが、慈光院や修学院離宮は借景庭園ですがその対象を特定していないのが特徴です。慈光院は生垣越しに大和平野の田園風景や山並みを、修学院離宮の隣雲亭からは大刈込越しに山並みや京都の街並みを一望できます。このような俯瞰的構造の借景庭園ではどのように広大な借景対象と庭園との一体感を実現しているのでしょうか。

慈光院では境内にはいってから書院へ行くまでは外部空間とは遮断されていて書院に座してはじめて、大和平野の田園風景や山並みがパノラマのように展開します。修学院離宮では大刈込に左右を閉ざされた階段を登り切って隣雲亭の前に立った瞬間、素晴らしい眺望が目の前に広がる仕掛けになっています。どちらとも閉ざされた空間からいきなりパッと広がる空間への転換という空間操作によって借景対象を強烈に認識される手法がとられています。たしかに、どちらの庭園に訪れた時も眺望を目にした時の解放感と「わぁっ!」と思わず歓声を上げたほどの鮮烈さをありありと思い出すことができます。修学院離宮の場合は特に、夕暮れだったので池泉に反射する夕日の光の粒まで覚えています。緻密に設計された空間操作によるものだったのですね~。とても面白いです!

▲慈光院の借景
▲修学院離宮の借景

参考文献:中村一、尼崎博正『風景をつくる』

ikeda

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日本庭園(主に古庭園)と歴史が好きな管理人が日本庭園の紹介と歴史コラムをと書いています。京都芸術大学大学院環境デザイン領域日本庭園分野を修了。書いた論文を当サイト内でも公開しています。

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