酬恩庵一休寺は鎌倉時代、臨済宗の高僧・大應国師が建てた禅寺です。アニメ「一休さん」でおなじみの一休宗純が居住していたので一休寺という通称で呼ばれています。
◆庭園レポート
酬恩庵の方丈は前田家三代・前田利常の寄進によるものです(前田利常についてはこちらのコラムで!)。庭園は石川丈山、松花堂昭乗、佐川田喜六昌俊、三名による合作といわれており、作庭時期は江戸初期だと伝わっています。
南庭はサツキの刈り込みの白砂庭園。スッキリ!シャッキリ!として、涼を得たような爽やかなお庭です。非常に手入れが行き届いているお庭で、うだるような暑い夏の日で汗がダラダラ流れていても、こちらの背筋までぴっと伸びる様相はさすが禅のお庭です。
東庭は十六羅漢に見立てた石を配したお庭です。
北庭は枯滝落水の様子を表現した蓬莱庭園。さきほどの南庭とは打って変わって、豪快な印象になりました。写真ではこじんまりと見えますが、石は結構な大きさがあり迫力のあるお庭でした。
境内には一休宗純の廟(墓)もありその前庭は村田珠光の作と伝わります。一休宗純は後小松天皇の御落胤なので、宮内庁が御廟所として管理しています。公開はされていないので、門の透かし紋様から少しだけ見えるだけです。
アニメの一休さんといえば「頓知かましてくる子どもらしくない子」なイメージですがあれは江戸時代に入ってからの創作のイメージです。でもその創作話にちなんだ「屏風の虎」が展示してありそちらもかなりステキでした。いい顔してます。
ちなみに一休は子どもの頃ではなく青年期に入ってから、風刺の意味を込めたとんちや謎かけを行っていたようです。その逸話を集めたのが江戸時代に発刊された「一休咄」です。
あと嬉しいのが、拝観受付の時にいただける小さなリーフレットに原在明という江戸の絵師が酬恩庵の庭を描いた「酬恩庵庭園真景図巻」が使われていること!素敵だ~。庭園も好きですが庭園画も好きです。
◆拝観
9:00~17:00
拝観料 500円
◆所要時間
30分程度
◆アクセス
京都府京田辺市薪里ノ内102 ⇒地図
近鉄京都線「新田辺」駅から徒歩で25分
JR「京田辺」駅から徒歩20分
◆歴史のこばなし
アニメ一休さんでもおなじみの一休宗純は「破戒僧」としてとても有名です。北朝家最後の天皇、後小松天皇の御落胤であったため政争を避けるため6歳で出家。27歳のころから破戒を目的とするような奇行が目立つようになったとか。
とにかく僧として禁忌とされていることを破りまくりました。肉は食う、酒も飲む、女も抱く(なんなら男も抱く)、由緒ある文書を焼いてしまったり、杖の先にドクロをくっつけて「ご用心、ご用心!」と叫びながら歩いたりとか…面妖だなあ。
僧としての掟を大っぴらに破ったのは浄土真宗の始祖・親鸞とて同じ。子どもの頃から比叡山延暦寺に入り、どれだけ厳しい修行にあけくれてもどうしても捨てきれない煩悩に、欲望に苛まれ続けました。悩み、惑い、逡巡し、心悶えて生きていくそれこそが真の人間ではないのか、その姿を見て阿弥陀仏が救いの手を差し伸べないわけがない、真の信心とはそういうことではないのか、と気づいて布教しました。たくさんの修行をしてたくさんの徳を積んで自ら救われようとしなくても、阿弥陀仏の絶対的な力を信じて(本願他力)ひたすらに心に念仏をもつことを浄土真宗の教えとしました。
一方、一休宗純の破戒は実はきちんと禅宗の教えに則ったものでもあったようです。室町幕府に庇護されていた禅宗は僧侶たちが文化的な教養を競い合うかのごとく、禅の求道をいく僧とは言い難いような貴族的な側面もでてきていました。その形骸化した姿に嫌気がさした一休宗純は禅の神髄を自らが示そうとして破戒的な行動をとっていました。禅宗で重要視され、禅宗とともに日本に伝わったといわれる「風狂」という用語があります。仏教本来の戒律から逸脱した行動を否定的に捉えず、悟りを表現したものとして肯定的に評する考え方です。一休宗純はまさに「風狂」の代表者として、世間からも「風狂」として畏敬の念をもたれていました。
厭世的な気分からのヤケクソな気持ちではなく、何層にも折り重なった考えの上で選択した行動だったので人々は一休宗純に魅了されたのでしょう。
一休宗純は浄土真宗の中興の祖、蓮如と親交があったことも知られています。蓮如と一休のやりとりの逸話(信憑性のほどはわかりませんが)も面白いので興味のある方は検索してみてください。ちなみに、わび茶の創始者である村田珠光や能役者の金春禅竹、連歌師の柴屋軒宗長など錚々たる文化人が酬恩庵を訪れ一休に教えを受けたようです。
一休宗純は68歳の時、禅宗から浄土真宗に改宗しています。親鸞の教えを讃えていたということです。親鸞聖人の200回忌の報恩講の際に、蓮如にお願いして親鸞聖人の肖像をもらい受けています。その肖像は秘蔵として酬恩庵に現在も伝わっています。その時に「襟まきの あたたかそうな黒坊主 こやつの法は天下一品」という賛を残しており、実に一休らしい機知に富んだ讃え方でいいと思いませんか?